2022年。アイドリッシュセブンの7曲
2022年12月31日 : IDOLiSH7
2022年。アイドリッシュセブンにとってたった一度しかない7周年。そんな大切な年は「BLACK or WHITE LIVE SHOWDOWN」という、かつて無かった大きなイベントで締め括られようとしている。ライブを主軸とした音楽イベントで終わらせるのは、アイドリッシュセブンらしいなと思う。
2022年も沢山の良質な楽曲がリリースされた。それぞれのグループイメージをより突き詰めたものから、新たな一面を見せてくれるものまで、幅広いバリエーションの楽曲で我々マネージャーをずっと盛り上げ続けてくれる熱意には感謝しかない。
いよいよ直前に迫った新ブラホワに向けて、今年披露された楽曲の中でも、特に個人的に印象に残った7曲を挙げてみようと思った。どの楽曲も甲乙つけ難いクオリティのものばかりだったので、最終的にはほとんど好みの話になってしまうのだが、そこは十人十色という言葉に甘えさせていただき、これが僕にとっての今年の7曲です!と変に強気に書き出してみた。
マロウブルー / IDOLiSH7
アイドリッシュセブン第5部のプロモーション映像でも使われた楽曲。ピアノを基調としたイントロからずっと淡く続く切なさ。これまでのIDOLiSH7には歌えなかったであろう名曲。グループ結成時に出会った彼らが、いずれ訪れるかもしれない別れを意識することで初めて抱いた不安。ずっとこのままでいたい気持ちと、変化していくことを受け入れるまでの感情のグラデーションが美しいメロディで紡がれる。
安定したビートで丁寧に歌われるAメロから、一転して変拍子になるBメロで表現されるのは彼らの葛藤。そんな迷いを振り払うように力強い陸の歌声を受けて展開するサビでは、新しい世界への希望を思わせるような開放感。本当にドラマチックな展開だ。
ずっと切なさをまとったこの楽曲は極端にしっとりしたテイストになってもおかしく無かったと思う。それをここまで見事なポップソングへ昇華させているのは、力強い音を鳴らすドラムとベースによるリズムが大きのではないだろうか。特に、静かな時にはメロディアスな旋律を響かせ、盛り上げるときには圧倒的なグルーヴを生み出しているベースは重要だ。
この曲を聴くだけで、これからも彼らは大丈夫だろうという想いを持てた。
Start Rec / Re:vale
今や絶対王者として君臨しているRe:valeが自分たちの原点へ立ち返るために作ったような歌。「ココロ、ハレ晴レ」で千の産み出した楽曲に百が歌詞をつける事で、彼らは一つの完成形に到達したのかもしれない。そんな今だからこそ、バンドとして活動していた過去のRe:valeに向き合い、現在のRe:valeとして新たに進むために必要な楽曲だったのだろう。
曲の始まりから繰り返される単音引きのギターフレーズは、初めて音楽へ向かい合った時の初期衝動を静かに表現しているようだ。サビでリズムがハーフになるエモマナー。90年代のUSエモシーンから脈々と受け継がれる展開に感情が高ぶる。隙間を生かしたギターアルペジオ、複雑なリズムを叩くドラム、効果的に使われるピアノ、何よりも緩急をつける展開によって生まれるストーリー。
様々な楽曲を生み出すことができる今の千だからこそ作れる完璧なバンドサウンド。インディーズバンドだったRe:valeはもういない。そしてRe:valeの二人が過去に足を取られることはもう無い。そんな力強いメッセージがこの「Start Rec」という曲には込められていると感じた。
No Sacrifice / ŹOOĻ
これまでヒップホップやトラップ、ラウドロックを取り入れてきたŹOOĻ。この楽曲ではK-POP的なサウンドを新たな武器として手に入れた。シンプルに誰が聴いても格好良いと思える曲はなかなか作れるものではないと思うのだが「No Sacrifice」は見事にそれをやってのけた。
体を揺らさずにはいられないアッパーなリズム、スキルフルながらも楽曲を壊すような取り入れ方をしないラップ、これだけアグレッシブな楽曲なのにキャッチーなメロディに心を鷲掴まれる。音数をやたらと増やして派手にするわけでなく、効果的に使われるシンセのフレーズや、印象的な「Nah nah nah..」というコーラスなど全ての要素に無駄のない完璧なセンス。
これまでもアイドリッシュセブンには様々なダンストラックがあったが、基本的にはドメスティックな印象の楽曲がどうしても多かった。そんな中でこの「No Sacrifice」は海外のシーンでも通用しそうなポテンシャルを感じた。これはŹOOĻの大きな強みかもしれない。間違いないく棗巳波という作家の音楽的素養によってなせるものだろうし、偉大な音楽家・桜春樹が残した大きな遺産の一つだと思う。
Hidden Region / TRIGGER
アイドルとして、表現者として、圧倒的な実力を誇るTRIGGERによるスタイリッシュな楽曲。跳ねるリズムに、まるでナイル・ロジャースのようなカッティングギター、そしてパワフルかつファンキーなベース。音楽としてのオーセンティックな力に、現代的なアレンジが加えられ、とても個性的でハイレベルだった。
東京国際音楽芸術祭にて「願いはShine On The Sea」をソロで歌って以来、本来持っていたポテンシャルを惜しみなく発揮できるようになった十龍之介のエモーショナルなボーカル。プロフェッショナルな姿勢をデビュー当時から完璧に貫き続ける九条天のパフォーマンス力。そしてTRIGGERのリーダーとして安定しながらも、表現力豊かな八乙女楽の存在感。この完璧なトライアングルでないと歌えない楽曲だろう。
不本意なスキャンダルによって一度はインディーズとしての活動を余儀なくされた彼らだが、古巣である八乙女事務所に戻ってからは一回りも二回りも大きな存在となった。今のTRIGGERは誰にも止めることは出来ない。
HELLO CALLiNG / IDOLiSH7
ミニマルなビートと、深みのある低音を響かせるベース。Opusに収録されていた「Everything is up us」を更に突き詰めたような名曲。広い空間を表現するようにデザインされた音のバランス、所狭しと散りばめられたカラフルな音色による遊び心、トラックだけでも楽曲として成立しそうだ。
最も衝撃を受けたのはサビでの歌パートの抜き方。バックトラックと歌を完璧に融合させた音楽としての完成度の高さ。これまで最も王道なアイドルソングを歌ってきた彼らが、アイドリッシュセブン史上最高に実験的な楽曲を、記念日という大切なタイミングでリリースしたことの意味は大きい。彼らはアイドルとしての楽曲を一つ上のレベルへ押し上げた。
個人的にはこの曲の歌詞が2022年で最も好きだったかもしれない。混沌と不安が広がる年に真っ直ぐ歌われるのは愛。人との繋がり、コミュニケーションの歌。誰も一人では生きていけない。だけど人と繋がろうとするのには少しの怖さがある。それでも繋がろうとする気持ちをそっと後押ししてくれる歌。きっと世界中の様々な問題の根底にあるものはディスコミュニケーションで、それは昔から変わらない。それが顕著に現れた今の時代だからこそ、虹の糸電話で繋がり合うことが大切なんだろう。
Phenomenon / 八乙女楽・十龍之介
ミュージカル「ゼロ」にて八乙女楽と十龍之介の二人よって披露されたゼロのカバー。現代的にバキバキのダンスナンバーとしてリメイクされたこの曲は彼ら二人が歌うからこその魅力に溢れている。
左右に振り分けられたアコースティックギターの音色が印象的なイントロは緊張感を生み出す。空間を生かしたトラックに乗せて歌い出されるアレンジに、名曲「In the meantime」を思い出した。高速BPMで展開していくトラックは徹底的にアグレッシブながらも、音色の選び方から配置、全てに共通して品性を感じる。
J-POP的コード進行や共感を得られる歌詞で聴かせる曲じゃなく、とにかく彼ら二人のパフォーマンスを魅せるための楽曲。それでいてメロディには耳に残るキャッチーさがある。TRIGGERとして歌われそうな曲でありながら、どこか新しいスタイル。それによって浮き彫りになるのは九条天という存在。TIRIGGERという完璧なトライアングルがある一方で、このデュオは最高にスタイリッシュだった。TRIGGERにはまだまだ可能性が残されていることを改めて感じられた。
Incomplete Ruler / 九条天・七瀬陸
間違いなくアイドリッシュセブン史上、屈指の名曲。
この曲を聴いて思い起こされたのは、やはり桜春樹という作家は稀代のメロディメーカーだったという事だ。キャッチーな曲の表現として「全編サビのよう」という言い回しがあるが、それとはまた次元が違う楽曲だと感じた。現在、聴く事ができる中でもサビを含め4つのパートがあるが、その全てに各パートに相応しい最高のメロディが書かれている。
ドラマの始まりを思わせる天による導入、寂しさや不安がそっと心に入り込んでくるような陸の歌声。徐々に高ぶる感情を爆発させるように曲は盛り上がっていき、辿り着いたサビではこれまでのアイドリッシュセブンには無かった壮大な世界観が歌われる。どこをとってもこれ以外にないと言えるほどの完成度。
ゼロ本人が作詞したという歌詞も印象的だった。「願いがもたらす絶望」というハッとさせられる歌い出しから終始描かれるのは、人との繋がりを求める願い。孤独を知るからこそ人と繋がりたいと思うのが人間の本質なのかもしれない。希望を感じさせる曲でありながら、その一方でずっと、どうしようもない寂しさが漂っている。だからこそ、この曲はデュエットで歌われる意味があるし、コールアンドレスポンスで会場と一体となることでゼロ自身が救われるのだと思う。
最後に
2022年はこれまでで最も絶望した一年かもしれない。国内外で大きな事件が起こり、世界中で不安が拡大し続けている。国単位から個人単位まで相変わらず分断は広がっている。そんな中でも個人的に何よりも大きかったのは、ずっと一緒に暮らしていた大切な愛猫が亡くなった事だった。
絶望と悲しみばかりの日々の中で、好きだった音楽もあまり聴けず、心から感情が動かされることもなかった。僕にとってここまでの喪失感を味わったのは初めてだったんだと思う。
少し時間が経ち、夏に読んだアイドリッシュセブン第5部に感動した。何よりも好きだったのは救済の物語だったことだ。どうしようもない喪失感を抱き続けた人間が救われる話。そのきっかけになるのが「Incomplete Ruler」という人との繋がりを願う歌。人の想いは循環して誰かを救う。当たり前のことかもしれないけど、普段の生活の中でそれを信じることはなかなか難しい。
それでも、そういった想いや気持ちがないと今の世界を生きていくのはあまりにも厳しすぎる。と僕は思ってしまう。もしかしたら、それは過剰なロマンティシズムなのかもしれないけど。それでも新自由主義的な価値観にはどうしても乗り切れないし、僕がずっと好きだったものは音楽や映画など、わけがわからないけど感情を揺さぶられるものだった。
アイドリッシュセブンの物語や音楽には、間違いなくそういった力がある。だからこそ僕のような門外漢だった人間にもこんなに響くのだと思う。
ストーリー第6部でアイドリッシュセブンは一つの結末を迎えると言われているが、実際それがどういったものかはまだ分からない。少なくともこれで全て終わりということではないだろう。勝手なことを言っているのかもしれないけど、僕はまだまだ彼らの物語を見ていたいし、感情を揺さぶってくれるような楽曲を聴いていたい。
アイドリッシュセブンはきっと終わらない。
それにやっぱり、世界は悪くないのかも、と僕はまだ言っていたい。