「Crescent rise」と「Treasure!」で見せたTRIGGERの新しさと本当の姿
2020年1月30日 : IDOLiSH7
もしかしたらTRIGGERは今、最も勢いのあるグループなのかもしれない。
アイドリッシュセブンの4週連続リリース企画、遂に最後のグループTRIGGERによる「Crescent rise」がリリースされた。ラストを飾るのに相応しく今作に収録された二曲はどちらも、聴きごたえのある素晴らしい楽曲だった。
そして、両曲ともこれまでのアイドリッシュセブンでは、あまり聴くことのなかった曲調なので新鮮で刺激的だった。それぞれ聴けば聴くほど、魅力が増していく楽曲なのでリピートをなかなかやめられない。恐るべきはTRIGGERの依存性。
Crescent riseでの新しいスタイル
千葉志津雄主演の名作「三日月狼」のリメイクとしてTRIGGERが主演を務めたミュージカル「クレセント・ウルフ」その話題作の主題歌は、彼ら自身が歌う「Crescent rise」だった。
この曲はどこか、ヴァンゲリスによるBLADE RUNNERの世界観を思わせる重厚なシンセサイザーのサウンドから始まる。曲を再生して数秒ですっかりと作品の世界観に入り込んでしまう程に完璧なオープニング。物語は20世紀初頭という時代設定だが、時代感と真逆のエッジの効いたデジタルサウンドを主題歌にしている点に驚いた。
最初は少ない音数でじっくりと丁寧に聴かせる構成。リフレインするギターのフレーズからは、月舘信八郎の拭いきれない苦悩が伝わり胸が締め付けられるようだ。そこから徐々に盛り上がるBメロの中でも、3人の歌声が1オクターブづつ上がるコーラスワークが息を飲むほどに美しい。そして一瞬のブレイクから一気にスピードアップするサビの迫力。
所々に配置された効果的なサウンドや頻繁に変化する展開など、一曲を通して全く飽きることがない。今回、改めて音源として聴いて気がついたのが、2番に入ってからのドラムンベース的リズムアレンジ。強めのスネアのインパクトもあり、90年代的オールドスクールな雰囲気に大喜びした僕は部屋で小躍りした。
これまでにもダンスミュージックとロックの組み合わせは数多くのアーティストが作ってきたものだが、そこに映画音楽的な要素が加わるのはとても新鮮だった。しかも、そのバランスが無理なく自然に馴染んているのでミュージカルの主題歌としても、ポップソングとしても聴きやすい本当に見事な楽曲で脱帽。
この曲を聴いていると見ていないはずの作品のシーンが次々と頭に浮かんでくるようだ。「クレセント・ウルフ」で描かれる三人の絆が今のTRIGGERの姿と重なり、この先、彼らが未知の場所へと向かう様子を想像して胸が熱くなる。
本来の姿を描くTreasure!
カップリングに収録された「Treasure!」は「Crescent rise」と全く別のテイストでありながら、こちらも今のTRIGGERを表現するとても重要な楽曲だった。そういった意味ではこの2曲はリンクしているのかもしれない。
出だしからこれまでのTRIGGERとの違いが伝わるサウンドに面食らったファンも多いのではないだろうか。僕は最初、全く予想していなかった歌謡曲的なアレンジに動揺しすぎて、全く理解ができなかった。これまで僕が持っていたTRIGGERのイメージはクールでセクシー。それはダンスミュージックをベースにした楽曲にも強く反映されていた。
しかし、この新曲のファンクネスは全くの別物。派手なホーンセクション、バキバキにスラップするベース、リズミカルにカッティングしまくる2本のギター、手数が多くパワフルなドラム。そして、強烈なグルーヴの上で吠えるように歌うTRIGGERの3人。これは完全に彼らの新しい姿であり、本当の姿でもある。
最初の歌詞から示されるように、これまで八乙女事務所という大手プロダクションで描かれた地図はもう破り捨てた。時は来たのだ。彼らはこれまで背負っていたパブリックイメージを背負う必要などもうない。今こそ、彼らが本来持っていた熱い男の姿で戦っていける。
そんな今のTRIGGERの姿をこれ以上に表現できる楽曲があるだろうか。一曲通して全く勢いが衰える事なく、全力で走り抜ける力強さ。身体を揺らさずにはいられない熱狂。終盤のプログレ的アレンジなど、今ではこの曲を愛さない理由が見当たらない。これこそが男の浪漫。
きっと長くTRIGGERを応援してきたファンならば、彼ら自身のパーソナリティは既に周知のものだっただろう。これがTRIGGERの本当の姿。もし僕が、YAOYOME Fes.で彼らが熱唱する「Treasure!」を聴いたらきっと涙が止まらなくなっていただろう。
TRIGGERが得たもの
謂れのないスキャンダルによってTRIGGERはメジャーシーンを追われ、自力を信じてインディーズでの活動を始める事になった。それは間違いなく彼らにとっては不本意なものだっただろう。だが、その経験によってTRIGGERは更に成長をした。地図がなくても、自分たちで道を切り開いて行ける事を知った。
そして、自分達が前を向いて動き出す事によって「クレセント・ウルフ」という大きなチャンスを得た。過去に囚われず、ただ前を向いて歩き出すことがどれほど困難な事か。誰にでも過去を思い出して叫び出したくなった経験はあるだろう。TRIGGERも確実に苦しんだはずだ。それでも彼らは前に進む事を選んだ。
これまでの地位もイメージも全て捨てて、ありのままの自分達で勝負出来るようになりTRIGGERは更に力強くなった。今の彼らの姿を見ていると、もしかしたら絶対王者であるRe:valeへと一番手が届きそうなのはTRIGGERなのかもしれないと考えずにはいられない。
4枚のシングルリリース
今回リリースされたシングルは全て、彼ら4グループのこれまでとは違う姿を見せてくれたものだった。
IDOLiSH7はこれまでの元気さやポジティブさだけでなく、苦難を乗り越えたからこそ得られる力強い姿。ŹOOĻは本気で力を出し尽くして歌う素晴らしさを知り、本来持ち合わせていたポテンシャルの高さを。Re:valeは絶対王者という立場に慢心せず、更に幅広い音楽を生み出し国民的スターへとまた一歩進んだ。そして、TRIGGERはこれまで進んで来た道をリセットした事によって本当の姿を表現した。
世の中にはずっと同じ音楽を追求する美学もあるのかもしれない。だが、人は成長をして変わっていくものだ。歌い手が変化しているのに、楽曲が変わらないのには僕はどうしても違和感を感じる。
だが、アイドリッシュセブンは彼ら自身の成長とともに、歌われる楽曲もしっかりと変化していく。だからこそアイドリッシュセブンは信頼できる。それぞれをキャラクターとしてではなく、一人一人の人物として描いているからこその変化。
これだけ丁寧なクリエイティブが生み出せるのは、制作に関わる方たちが作品に対する大きな愛情や情熱を持ち続けているからだろう。相変わらず僕は、このアイドリッシュセブンというプロジェクトに驚き、感動をし、更なるサプライズを楽しみにしている。
この奇跡のような作品に、更に大きな奇跡を期待せずにはいられない。