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L’Arc〜en〜Cielの「True」は90年代を代表する名盤ではないのか

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これは、めちゃめちゃ名盤じゃないか。

久しぶりにL’Arc〜en〜Cielの4thアルバム「True」を聴き終えた僕は思った。これは子供の頃に持っていたイメージよりも、はるかに凄い作品だと。

あの頃は、何故か分からないけど好きだ。くらいの認識だったと思う。1枚通して捨て曲がなく、どの曲もキャッチーなメロディが歌われている。その聴きやすさと、どこかヨーロッパを思わせる世界観は愛知県の田舎町(というか村)に住んでいた少年にとっては、とても魅力的なものに感じた。

初めてこのアルバムを聴いたのはリリース当時。思春期真っ盛りだった僕は、X-JapanLUNA SEA黒夢など、当時流行っていたビジュアル系バンドの流れでL’Arc〜en〜Cielを認識していた。だが、彼らは自分たちがビジュアル系とカテゴライズされる事を拒否していた。アホだった僕は何で?と思っていたが、今だったらわかる。

彼らの表現していた音楽は、耽美でゴシックな世界を描いていた当時のビジュアル系シーンとは一線を画していた。それよりも80年代以降の海外のポップスやUKインディからの影響が強かったのではないのだろうか。それはアルバムの1曲目を飾る「Fare Well」から顕著だ。

ミドルテンポでピアノとストリングスが印象的なこの曲だが、どこかブリットポップを思い出させるところもある。聴き方によってはOasisから野暮ったさをとって上品にしたような印象。1曲目にしっかりと世界観を聴かせる曲を配置することで、このアルバムはこういった作品だと宣言しているようだ。

2曲目の「Caress of Venus」ではハウスミュージックとネオアコを融合させたようなダンサブルなビートを聴かせてくれる。このアルバムが発売された翌年デビューする、スーパーカーくるりなど所謂97年の世代が後にテクノやトランスなどを自身らの音楽に取り込み、後世の日本のバンドに大きな影響を与える事になる。が、それよりも早くダンスミュージックを取り入れていた事に驚いた。

そんな先見の明は、次の「Round and Round」でも聴く事ができる。アルバム中、最も歪ませてるんじゃないかというギターと、恐ろしい程に弾きまくるベースが印象的なこの曲。それらをまとめているのはドラムだろう。ブラックミュージック的なリズムを高速化する方法論は、Arctic Monkeysが00年代に衝撃を与えた演奏と同じではないだろうか。この辺りに当時流行っていた他のバンドとの視点の差が見えたりする。

そして、次を飾るのはシングルとして大ヒットした名曲「Flower」アコギのアルペジオと、1曲中ほとんどずっと動き、メロディを奏で続けているベースラインはThe Smithsを思い出させる。他の曲からもThe Smithsからの大きな影響を伺う事ができるが、L’Arc〜en〜Cielというバンドにとって80年代のUKインディやネオアコと呼ばれたサウンドの存在はかなり大きかったんだろうと思う。

ニューウェイブ / ポストパンク的なリズムと、心地よく歪ませたギターサウンドが格好良い「”good-morning Hide”」でもUKな印象のサウンドを聴かせてくれる。特に終盤のリバーブさせたギター。ハイトーンを16分で弾きまくるプレイは、後にBloc PartyEditorsなど様々なポストパンクリバイバルのバンドが00年代によく弾いていたフレーズと完璧に共振している。

Primal Scream「Rocks」などでお馴染みのタンタンタツタツのドラムで始まる「the Forth Avenue Cafe」は驚くほど見事なポップソングじゃないだろうか。歌い出しからスーパーキャッチーなサビで始まり、イントロはネオアコ的な哀愁のあるギター。Aメロは少ししっとりと聴かせて、Bメロで徐々に盛り上がり、最高なサビに入る。

シンプルなギター・ベース・ドラムだけでなく、ピアノや東京スカパラダイスオーケストラが参加したホーンセクションが楽曲を華やかに盛り上げ、時に切なく聴かせる。個人的には名曲揃いのこのアルバムの中でも特に完成度の高い楽曲だと思っている。

そんな「the Forth Avenue Cafe」から立て続けに2つシングル曲が続く流れは圧巻。「Lies and Truth」ではグルーブ感のあるリズム隊に、空間を活かしたセンス抜群のギターフレーズなど、相変わらずクオリティの高いバンドアンサンブルと、美しいメロディが心に響く。

「風に消えないで」はアルバム中、最も疾走感のある曲。その疾走感も当時のビジュアル系シーンのビートロック的(?)なものよりも、明らかにThe Smiths。所々モリッシーが歌ってても自然なんじゃないのと感じる箇所すらある。日本でThe Smithsの影響を受けたバンドの代表格はスピッツだが、この頃までのL’Arc〜en〜Cielはかなり近い系譜にいたんじゃないかと考えたりする。

思い切りクリスマスソングの「I Wish」にも驚かされた。リアルタイムで聴いていた当時、まだ子供だった僕には唐突すぎて全く分からなかった楽曲。なぜ?と思いこのアルバム中、唯一少し苦手な曲だったが、今となってはこの曲があるからこそ「True」というアルバムをポップスとしてカテゴライズしやすくなっている。

オーソドックスなクリスマスソングっぽくありながら、Bメロでは彼等らしいキャッチーで胸に迫るメロディが歌われる。しかし、これだけ見事にクリスマスっぽさが出せるのは凄い。どこかで何となくThe Jackson5っぽい、John Lennonっぽいという記号から脳がそのように思わせるのだろうか。今では、Wham!Mariah Careyと続けて聴いても全く違和感がない。

アルバム最後を飾るのは重厚なバラード「Dearest Love」ディストーションギターで空間が塗りつぶされている訳ではないのに、なぜかシューゲイザーの雰囲気を感じる。楽曲のテンポ感がそう思わせるのか、コード感がそう思わせるのかは分からないが(ただシューゲイザーだったらもっとボソボソと歌うだろう)

今になって聴いたからこそ分かった一番大きなポイントは、Radioheadの最初期の代表曲「Creep」での有名な箇所、サビ前にJonny Greenwoodが「ガガッ」と鳴らすギターの参照だろう。これは、くるりも名曲「東京」で使っていたが、それよりも早く取り入れていた事に驚いた。

まるでU2のようなスケールの大きさを感じさせるこの曲でアルバムは幕を閉じる。全10曲50分という作品のサイズ、曲のテイストの幅広さ、全体の構成も含めて物凄く聴きやすい。どの曲も個性的でありながら、一貫してメロディは耳に残りやすいポップなもの。そこに、ポップスとしてこの作品を作ろうとしたメンバーの強い意志を感じる。

アルバム全体を通して、個人的に重要だと思ったのがドラムだった。当時ドラマーだったsakuraはこのアルバムが最後の参加となった。所謂ロックで主に使われる8ビートのオーソドックスな形でなく、幅広いジャンルからの影響を受けたであろうドラミングをバンド内で鳴らす彼の存在無くしてこの名盤は生まれなかったと思う。

どうしても、当時ビジュアル系というカテゴライズをされていた事もあり、この「True」というアルバムは正当な評価がされていないと思ってしまう。もっと90年代を代表する作品として取り上げられてもいいのではないのだろうかと。

長々と個人的な解釈を書き綴ってきたが、もし、当時まだ10代だった僕がこの文章を読んだらきっとこう思うだろう。よくわからん。と。

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