Paul Mullenという才能がもっと知られてもいいのに。1

paul mullen yourcodenameis:milo

イギリスにポール・マレンというミュージシャンがいる。2000年代の初め頃からYOURCODENAMEIS:MILO(以下YCNIM)というバンドのフロントマンとして活躍、2007年にバンドが解散してからは複数のバンドを組みコンスタントに音楽活動を行っている。

僕はYCNIM時代から彼に魅了されてずっと好きでいるのだが日本ではあまりにも知られていない。いや、ヨーロッパでも特に売れている訳ではなさそうだ。その才能があまりにも世の中から無視され続けているので彼についての記事を書いてみる事にした。誰かが少しでも興味を持ってくれれば良いと思って。

僕がポール・マレンを知ったきっかけはYCNIMの1stアルバムだった。当時、僕はアメリカのプログレッシヴ・メタル・ハードコア・サルサ・ダブバンド(?)のThe Mars Voltaが大好きだった。ある日タワーレコード渋谷店をウロウロしていると気になるPOPが目に入った。

「イギリスからのThe Mars Voltaへの回答!」

そんなものがあり得るのかと思いながらも、横にあったCDに視線をやると奇妙なジャケットの輸入盤CDが陳列してあった。電球が吊るされた小部屋の中に男が謎のポーズで座っている。特に文字は入っていない。上から貼られているラベルと背表紙でYOURCODENAMEIS:MILOというバンドのCDである事は分かった。

何故か惹かれてしまったCDジャケットと渋谷店のスタッフさんによる手書きPOPにつられてYCNIMの1stアルバム「IGNOTO」を購入した。後で分かったのだが、謎の魅力を持つCDジャケットは元ヒプノシスのストーム・ソーガソンがデザインしたものだった。彼はThe Mars Voltaの2枚目までのジャケットを手がけており、どうりで似た魅力を感じたのだと知った。そして、そういう意味での回答?と少しタワレコスタッフを訝しんだ。

どんな音か分からないまま購入したので帰宅後に楽しみ半分・不安な気持ち半分でCDを再生した。左右にチャンネルを振られた複数のギター、重めのベース、シンプルで堅実なドラム、甲高い声、ジリジリした音質。エモやスクリーモを感じさせながらもジャンル分けをするならばポストハードコア。全然The Mars Voltaではなかった。

僕が期待していたのはThe Mars Volta的なアグレッシブで躍動感に溢れる情熱的なリズムと変態的に弾きまくるギターだった。YCNIMの音楽にそれらの要素は皆無だった。タワレコスタッフめ。

全く回答していないじゃないか。誰もThe Mars Voltaに回答なんて出来ないのだと思いながらぼんやりアルバムを聴き続けていると、決してキャッチーではないYCNIMが少しづつ心地よくなってきた。

物足りないと思っていた演奏は曲を構成する上でメンバーそれぞれが必要な音を鳴らしている事に気づく。最初は奇妙に感じられたミックスもとても計算されたもので音の配置だけではなく、曲の展開に合わせての微妙なコントロールでストーリーが作り上げられている。

The Mars Voltaがプログレッシヴロックのハイレベルな演奏と情熱を現代に甦らせたのだとしたら、YCNIMはインテリジェンスとロマンスを生き返らせている。これはアプローチこそ違えど確かにThe Mars Voltaへのイギリスからの回答とも言える。タワレコスタッフ様ごめんなさい。心の中で謝罪をした。

ポール・マレンを中心としたバンドYCNIMは実に野心的だった。デビューアルバムのジャケットをストーム・ソーガソンに依頼した事もそうだが、アルバム前にリリースしていたEPではDesigners RepublicがアートワークとMVのディレクション、スティーブ・アルビニがプロディースを務めている。デビュー作にこれだけのタレントが関わる事はなかなかあることではない。

そして彼らがアプローチしたのはレジェンド達だけではなかった。1stアルバムから2年後にリリースされたサイドプロジェクトアルバム「Print is Dead Vol.1」では数々の同年代のアーティストとのコラボレーションを行なっている。Bloc Party、The Automatic、Maximo Park、Futureheads、そして日本からHi-STANDARDの難波章浩が率いていたULTRA BRAiNという、その時代のUKシーンのバンドを愛聴していた人間からすると、おぉ!となるメンツが参加している。

YCNIMはその後、2ndアルバム「They Came From the Sun」をリリース。スペーシーな雰囲気を持ったこの作品は1stアルバムよりもポップになった部分と難解になった部分が同居した良作だった。

このアルバムの中でも特にポップな1曲「Understand」が好きなのだが、MVでは左利きのGibson SGを弾きながら歌うポール・マレンの姿を見る事ができる。細身で一見すると神経質そうに見える彼が内股にSGを弾く姿は格好良く憧れた。左利きになりたかった。

この作品の後に「Print is Dead Vol.2」の制作を行っていたようなのだが、新たなアルバムが世の中に出ることはなくバンドは解散した。

ここまでがポール・マレンの音楽活動の中でも最も大きかった存在であろうYCNIMの簡単なストーリーだ。解散後の話はまた別で書きたい。

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