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POPEYE連載「本と映画のはなし。」を自分の場合で考えてみた

本と映画のはなし。

雑誌POPEYEの連載「本と映画のはなし。」が一冊の本になって出版されていた。

「本と映画のはなし。」は色々な職業の人達が自分の好きな本・映画についてそれぞれ2作品づつ語っている連載だ。その人のルーツや情熱が見えてとても面白い。

ふと自分だったらどうだろうと思って少し考えてみた。あまり深く考えすぎても思考の海にあっぷあっぷと溺れてよく分からなくなるので、パッと思いついたものを書いてみることにした。

人間失格 / 太宰治
アルケミスト- 夢を旅した少年 / パウロ・コエーリョ
アンダーグラウンド / エミール・クストリッツァ
ネバーエンディング・ストーリー / ウォルフガング・ペーターゼン

人間失格

「人間失格」はあまりにベタじゃないかとも思ったのだが好きなものはしょうがない。厳密には好きというよりも衝撃的だったという言葉の方が適切なのかもしれない。

今から10年ほど前にちょっとした挫折をした。挫折というか自分の内面と向き合えきれなかった結果、新たな選択をする必要ができた。だが簡単に振り切れない思いもあり、心の中が鬱々としていた。そんな時にただ何となくという気持ちで人間失格を買った。

それまで本はあまり読んでいなかった(今でもあまり沢山読むわけではないが)。それでも太宰治という人や「人間失格」という作品の存在は知っていた。「人間失格」というタイトルからも暗い内容なのだろうというイメージを持っており、その時の自分の鬱々とした気持ちと重なって毒を食らわば皿まで気分で買ってみたのだ。

初めは読みやすさに驚いた。現代の小説すらほとんど読まなかった僕の頭にもスラスラと言葉が入ってくる。ほぅ。これは。と思い、読み進めていくといきなりガツンとやられた。

主人公の大庭葉蔵は子供の頃から道化を演じているというのだ。周りの大人や同級生たちに対して自分の本心を隠してお調子者を演じている。そんな事が描かれている序盤で一気に「これは自分の事だ!なんでこの感覚を知っているんだ!」と感じ、一気に心を持って行かれてしまった。

この「自分だけが知っているはずなのに」という感覚こそが、この作品を好きな人が皆んな口にするものだというのは後々知った。という事は「ほとんどの人が内面の本質的な部分に抱いているが言ってはいけないと感じる部分」を「人間失格」では描いてしまったという事だ。ちなみにこれに似た感覚は西加奈子さんの「サラバ」を読んだ時にも感じた。「サラバ」に関しては主人公の名前が自分と同じ事もあり色々と込み上げてきてしまった。

以前、ほぼ日刊イトイ新聞で吉本隆明さんが言っていた言葉として、素晴らしい作品というのは「これは自分だけが知っている感覚」というのを沢山の人に感じさせる作品だ。と紹介していた。人間失格にはまさにこの感覚を与えられ僕はその後、太宰作品を次から次に読むようになった。

アルケミスト- 夢を旅した少年

パウロ・コエーリョ著の「アルケミスト- 夢を旅した少年」を読んだ時には違う感動をした。

友達が誕生日にプレゼントしてくれた本で(なんてセンスのあるプレゼントなんだろう)、もらってから夢中になって一気に読んでしまった。

スペインの羊飼いの少年が夢で見たピラミッドへ宝物を探しに行く物語で、主人公の旅を通して人生における大切なものがとてもわかりやすく描かれていた。

主人公のサンチャゴは羊飼いとして普通に生活をしていた。嫌々やっている仕事ではなく、自分で望んでやっている仕事のはずだった。でも夢で見たピラミッドがどうしても気になってしまう。ピラミッドなんてはるか遠くにあるし自分がそんな所まで行くなんて夢のような話だった。

それでも少年は羊を全て売って旅に出ることを自分で決断する。そのまま羊飼いをしていれば安心な人生を過ごせたはずなのに。旅に出た後もたくさんの問題が降り注ぐが、どんな時でも決断をして進んで行く。

書店に行けばビジネス系の自己啓発本が大量に並んでいる。それらを何冊も読むよりも「アルケミスト」を読む方が自分にとっては大きな力になる素晴らしい物語だ。

アンダーグラウンド

エミール・クストリッツァ監督の「アンダーグラウンド」も何気なく観た映画だった。

最初は監督がやっている「Emir Kusturica & The No Smoking Orchestra」というバンドを知ったのが先で、調べているうちに映画監督だという事を知りビデオ(!)をレンタルして観てみた。

パッケージや裏面のあらすじなどから猥雑で狂乱的な雰囲気を持った映画なのかと思い再生してみるとトーンとしては自分の持っていたイメージに近かった。バンドの音楽も相まって映画を通して都会的に洗練されておらず、ジプシー的で土の匂いが漂っているようなムードだ。

第二次世界大戦中のユーゴスラビアから、1990年代初頭の旧ユーゴスラビアの内紛までを描く大作なのだが全く重苦しくはない。実際の映像との合成なども含め時々ユーモアを交えながら描くストーリーはリアルとファンタジーを何度も往復する。

3時間近くある大作だが、作品のテンションとストーリーで全く長いとは感じなかった。エンディングも素晴らしく個人的にはとても好みな終わり方だった。ストーリーがあってファンタジーを交えながら描くからこそ歴史というものを考えさせられた。個人的に生涯ベスト級の作品だ。

ネバーエンディング・ストーリー

最後は誰もが好きな「ネバーエンディング・ストーリー」。小学校1年生の頃に金曜ロードショーか何かで観たことが映画というものに興味を持つきっかけになった。僕にとってのオリジン的な作品。

幼い頃の記憶だが「悲しみの沼」のシーンが怖かった事をはっきりと覚えている。薄暗い沼をドロドロになりながら進まないと行けない。絶望して悲しみに負けてしまうと底なしの沼に沈んでしまう。早くしないと虚無に追いつかれる。黒い狼の様な姿の虚無。アトレーユの愛馬アルタクスは悲しみに捕まってどんどん沈んでしまう。アトレーユも悲しみに負けて沈み始める。それでも進まないと行けない。いよいよ虚無に追いつかれそうになった時にファルコンの登場。

これまで全く出ていなかった白くてふわふわした犬顔のドラゴン(?)。子供心に「助かった!」という心からの安堵と「これ誰?」という気持ちを味わった。

大人になったいま考えると、悲しみに負けてしまうと沈んで溺れてしまう。虚無に追いつかれない様に進む。など非常にエモーショナルかつ本質的なメッセージが入っているんだと感じる。

リマールが歌う主題歌「The Neverending Story」も最高で未だに落ち込んだ時などに聴いて元気を出したりする。大人になってから初めて見たリマールのビジュアルも軽くショッキングで、そこまで含めて「ネバーエンディング・ストーリー」が大好きだなと感じた。

こうやって自分の好きな作品を挙げてみると、どれも自分の考え方に大きな影響を及ぼしているんだなと改めて感じた。本や映画、音楽から教わることは沢山あって、そういったもので自分が構成され、自分もそんな何かを産み出したいと願う様になる。

死ぬまでに一つでもいいから何か人を感動させられるものを産み出すことが出来たら、それは本当に幸せなことなんだろうなと思う。

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